ミヤのブログ

醤油飲みません

ノージョブノーライフ

『 はじめまして  さん。最近彼氏に浮気されて別れちゃって……誰かに慰めてほしいなーなんて笑。良かったら会いませんか?』


突然一通のメールが届いた。
もちろん、そのようなサイトに登録した覚えもなく。
「なんだ迷惑メールか、いったいどっからアドレスを入手してんのだか」
そんなことを考えながら、興味本位でメールを開いてみる。

メールの本文にはありがちな文章と、出会い系サイトへの「URL─招待状─」だけがある。
はいはい、無視無視。
受信拒否をしようとした刹那、あることに気づいた。
「……なんだこれ」
だが、問題は本文ではなく、件名にあった。

【新着1件 : さくらさんよりメールが届きました♪】

「サクラのさくらさんとは面白いじゃねぇか。駆け引きのつもりか?まあ、ブラフだとしてもノッてみるのも一興か」
そう判断し、URLをクリックする。
まあそれがサクラだという確信はないが。
せいぜい楽しませてくれ。

「さあ─ゲームを始めよう」

URLを開くと、さきのメールの本文と、"返信をする"というボタン。
どうやらいくつかルールがあるらしい。

・与えられた無料ポイントは300P
・メールの返信には50P
・サイト内のURLを開くには200P

ポイントを得るためには課金をするという、至極ありがちなシステムだ。

「とりあえず返信でもするか……」
そもそも会うことは不可能。
登録した覚えもないサイトには、もちろん居住地の情報もなく、登録名もないことから名前欄が「 」─くうはく─になっている。
それでも相手は会いたいと言ってくる。
こんなものに騙される人がいるのか、と思いつつ、暇つぶしをすることにした。

「さて。まあ会うのは不可能だとして、電話番号くらい聞き出してみるかな」

『 はじめましてさくらさん。それはろくでもない彼氏ですね。是非会いたいです。いちおう待ち合わせ場所なのですが、ローソン○○店に来れますか?僕の家の近所なので。』
──っと。


期待はしてなかったが、五分も経たないうちにそれの返信が来る。
「釣れた」とでも思ったのだろうか、ハイテンションな本文。

『はい!大丈夫です♪早く会いたいなぁ♪オシャレしていくね♪このミニスカート履いていっちゃおうかな笑 URL』

どうやらさくらさんは近所に住んでいるらしい。
丁寧にURLまで載せてくるあたり、それなりの手練と見える。
もちろん開く訳はないが。
しかし、時間も日にちも決めずにどうやって待ち合わせるというのか。

『 可愛いミニスカートですね!楽しみにしてます。あ、時間と日にち決めるの忘れてましたね。10/20の17-00でどうですか?』

すぐさま返事が来る。
相手は完全にURLを開いたものだと思っているようだ。

『 可愛いだなんて照れる笑。20日の17時ですか?わかりました♪  さんはどんな格好で来ますか?』

しっかり疑問形で送ってくるあたりに感心すら覚えつつ、次の手に出る。
現在の俺のメールの返信は2回。URLを開いた─ことになっている─のは1回。
通常ならば無料の300Pは使いきってしまっている、───が。
ここで返信をすればどうなるか。

『 僕はわかりやすいように、黄色いTシャツにジーンズで行きます。あと、当日ついた時に連絡が取れるように念のため電話番号を教えてくれませんか』

そして、電話番号を聞きだしてみる。
まあ、簡単に教えてくれる訳もなく。

『 番号は**********です!楽しみにしてますね♪』

『 すいません、番号が***というようになっていて見えないのですが……』

『 そうなの!?なんか、メールで番号を送ると勝手に伏せられちゃうみたい……ここからなら見れるはず♪ URL』


「さくらさんはこのサイトについて詳しいようだな」
などと皮肉をこぼしてみたが、相手に伝わることはない。
丁寧にURLを貼り、すみやかに課金を促してくる。いったいこのURLはどんな内容なのか、課金して見てみようか、なんて好奇心を抑えながら返信をする。

『 URLを開いてみたのですが、よくわかりませんでした。もういちど本文で送ってくれませんか?数字ではなく、ぜろきゅうぜろ…みたいに平仮名でなら送れると思うので、それでお願いします。』

───さて。
どのような返信が来るのだろうか。
これまでより幾分か時間がかかって、それは届いた。

『 わかった!********** これで送れてるかな?♪連絡待ってます♪ 』

期待はずれ。
いや、期待通りと言うべきか。
その瞬間、ミヤの"勝ち"が決まった。

チェックメイト

ため息をつきながら、6通目─最後の返信─をする。

『また文字が伏せられています。そもそも最初のメールでの「"ろく"でもない」「"いち"おう」「○○店"に"」は伏せられてなかったよね?そして二通目の時間と日にちも読めていた、この事についてどう説明できる?ちなみに俺は一度も課金はしていないので、あしからず』


意外にもその返信は早く届いた。
返す言葉がなかったのか、それとも敗北宣言か。

【新着1件 : さくらさんよりメールが届きました♪】

本文『   』








「 」─くうはく─に敗北の二文字はない。
ミヤは二度と来ることはないだろうメールアドレスの受信拒否をして、大きく息をついた。
「さて、デレステでもするか〜!」

そして今日もゲームに没頭する。
「 」─くうはく─の名のもとに。



もっとも──
空白なのはミヤの履歴書なのだが───




おわり